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第5章 本屋の愛すべきお客様たち ◆レジ渋滞させるひと 私の店の上得意さんでMさんというお方がいらっしゃいます。彼は交通関連の書籍、中でも鉄道・航空関係がお好きのようで、日本交通公社の「鉄道廃線跡を歩く〜」の類や、イカロス出版の本を毎回いつも大量に注文されます。 彼は大体毎回10冊ほど注文されます。で、注文品が全部揃ってから買いにこられるのですが、こられる曜日はほぼ100%間違いなく土・日のいずれかでございます。 そんな時に狙いすましたかのごとく彼はやってまいります。どういうワケか、その日の一番殺人的に混み合っている時に。 で、会計が終わったと思ったら彼はおもむろに数枚の紙の束を取り出します。これは、「マイボール」ならぬ「マイ注文伝票」でございます。すべて一枚一枚に氏名・電話番号・書名・出版社名・著者名が明記されているという用意周到ぶりでございますが、いや、これをもし一からレジで書かれるなんてことになったら私は泣きます。 しかしあらかじめ必要事項が記入してあっても一点一点確認はしなければなりません。何故ならば、微妙に書名を間違っているがために、出版社に注文する段階でえらく苦労、遠回りすることもあるからです。まさに「急がばまわれ」全部書名が一致しているかどうかその場で確認します。 しかし、当の本人M氏は目もうつろ視線は完全に別世界へとトリップしております。全くわれ関せずといった面持ちで。彼がいる間はレジとしての機能がストップというかマヒ。交通マニアの彼が「レジ大渋滞」を引き起こすとはなんたる事か。 これが毎回無限ループのごとく続くのでございます。私どもの間では、彼の応対をすることになった人を「当たり」と呼んでおります。 そんな彼もたまには、すごーく暇なマッタリとした時に来店されたことがございます。しかし、彼は空いているレジには興味が無い模様。レジが混雑するまで「旅と鉄道」を立ち読みしながら根気良くお待ちになられました。そしていよいよレジも混みこみに、という時に「出番だ!」とばかりに彼はレジへ……。何でだ!!
今から遡ること5年位前の話なのですが、私の勤めている書店が売場大変更の為全面改装となりました。ほぼ2週間、完全閉店という大掛かりな一大プロジェクトでありました。 店内には足場が組まれ、床にはビニールやら紙くず・新聞紙やらの産業廃棄物が散乱し、雑誌棚にはホコリ防止のためにブルーシートが敷き詰められており、それはそれはものすごい「カオス」な状態を形成しておりました。雑誌・本が整然と陳列された日常的な書店風景とは完全に別世界です。 もちろん入り口は工事業者がいろいろと出入りする関係上、常に開けっ放しのフリーとなっているのですが、改装作業も佳境に入りつつある昼下がりのこと。 我々に「あの……、ただいま休業中なんですけど……」と説明するスキマすら与えず、この初老男性はこう申されました。 「月刊誌はどこだ!」 あの〜貴方にはこの殺伐とした状況が見えないのでしょうか?? 前後左右四方八方どこから見渡せどもハシゴ・足場・ブルーシート・特殊工具そして、けたたましい作業音……。一体全体どうしたらこの様な状況下において「月刊誌はどこだ?」などというお言葉が出てくるのでしょうか? と、問い詰めたい気持ちにかられたのでした。 我々が「改装中のため休業しておりまして」と説明するも、初老男性はまったくそれを聞き入れることなく、ただただ『月刊誌はどこだ!』と……。 そして、それから2年後。今度は別の支店の改装作業を手伝うこととなりました。そこへまたしても別の初老男性がふらりと現れ、 「週刊誌はどこだ?」 もしかすると、月刊誌・週刊誌には状況判断力を鈍らせる魔力でも宿っていろのでしょうか? |
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