5時から作家塾

第4章 書店の法則

3.レジがひとりになった途端に混みだす

 これは書店に限らず、小売業全般に当てはまる「法則」かもしれません。
 書店の利幅っていうのは微々たるものなのでございます。まあ、万引きによるロスなんかを差し引きましても、20%程度ではないでしょうか。そんな低粗利でございますので、「売っても売ってもなかなか儲からない」。それが現実でございます。ならば、利益を捻出するためには削れる部分は削らねばなりません。
 結果そのしわ寄せは人件費にまわってくるのでございます。ならば必然的に、レジは一人でいいんじゃないのか? という話になりますが、表題の法則があるがゆえに、たとえヒマな時期であっても、念のためにと2人以上のシフトを組まざるを得ないのが現状でございます。
 以下に、『最悪。こんなコトが起こったらイヤだ!』と思われるシチュエーションを例として記します(あくまでもフィクション。実際にあったらやだ!)。まあ、書店では結構日常的に展開されている光景だとは思いますが、いかがでしょうか。

◆某光景

 お客様がパッタリと引いた、つまり今現在はヒマだと判断し、もう一人のスタッフを休憩にあげる、もしくは帰らせてしまってからのことでございます。
「これだけヒマならひとりでも余裕だね〜」
 などと余裕をかましておりますと、レジにお客様が一人。
 しかし、しかし……。そのお客様は、両手にイッパイ10冊はあろうかという位のハードカバーの単行本を抱えておられます(まあ売上が上がるのは嬉しいのですが)。
 私はいらっしゃいませとレジに売上登録をし、単行本なのでお約束通り、
「カバーはお掛けしますか?」
 と質問。まあ、これだけの冊数なので、実際カバーなんぞ掛けようものならエライ時間も掛かります。私はひそかに「いいえ結構です」という返事を期待しながら訊いたのでございますが、しかし! 今回はその淡〜い期待は打ち砕かれまして。
「ハイ! お願いします」
「……かしこまりました」
 言われるがままに従うしかありません。10冊あまりの単行本に私は一心不乱にカバーを掛けまくる。
 で、フッと顔を上げてみると、アラアラアララララ……。さっきまでまったくいなかったハズのお客様がズラリズラリと並んでいらっしゃるではありませんか。しかも、皆様一様に「はやくしろ〜!」オーラを発していらっしゃいます。
 せっせとカバーを掛け終え、いざお会計。
「○○円になります」
「カード払いで」
「か、かしこまりました」
 売上承認されるまでの時間の長いこと長いこと。人生でこんなに時の流れのゆったりさを堪能できる場面はなかろうかと。
 で、やっと伝票出てまいりまして、サインを頂きます。
 やれやれ、やっと終わったと思ったのもつかの間。
「あ、そういえば取寄せてホシイ本あるんだけど」
 ……漢字の羅列。タイトルを書くのも大変な、ややこしい資格試験関係の問題集が5冊ほど。並んでいるお客様達からは依然「はやくしろ〜!」オーラが。
<いやぁ、勝手に混んでいる時に並んでおいて、何をイラついているのだあなたたち>
 額に汗かきかき客注伝票を書き終え、
「ありがとうございました」
 と。

 次のお客様。
「千円の図書券を100組、包装してのし付けて下さい」「かかかか、かしこまりました」
<ひえー、こういうのは前もって電話してよお〜>
 と思いつつも、この状況を考え、
「お時間かかりますので2時間後にまたお越し下さい」
 と、この窮地を切り抜けるのでございます。
 で、次のお客様を接客している最中に、横からおばさんが
「NHK趣味の園芸、どこ?」
 ひええ、横入りしないでよ〜、並んでよ〜。
「趣味の園芸はあちらのテキストコーナーにありますっ!」
 するとおばさん
「どうも場所わかんないんだよね。アンタ教えてよ」
「しょしょしょ少々お待ちくださいっ」
 後ろのおじさん待ち切れないのか、接客中にもかかわらず、私の目の前に「週刊ポスト」を突き出されます。
<あああ、待って下さい>
 そのおじさん待ちきれず、レジに300円置いて本もって行ってしまいましたあ!
「ああ、レジ通してないよお〜」

 まだまだ列は続いております。そして、その列のはるか後ろに、スーツを着て営業カバンを持った男性が。あっ! 手には一覧注文書が握り締められている。アポなし営業の某実用書系出版社営業氏が!!
 ああ、何やら目で訴えていらっしゃいます。そんな目で見つめないでくれえ〜こんな時に来ないでくれえ〜。
 しかも、こういう時に限って電話が! しかも「○月○日に頼んだ本、どうなってますか?」という問合せ。
 もちろん電話なんて取れやしません(コールは何回も鳴り続く)。どうしてどうして、レジが混み合っている時にあわせて電話までもが集中するものなのか? 絶対誰かが人工衛星、あるいはライブカメラで見張りつつ、タイミングを見計らっているとしか思えません。

 そして、マイペースなご婦人。後ろにいっぱいお客様が並んでいるのに、ゆっくりと、1枚、1枚、小銭を数えながら出してくれるのでした。しかも全部100円玉。端数は全部1円玉だったり。
 そして、またマイペース。「その場で」ゆっくりと財布をバッグにしまわれます。とても丁寧に。彼女の周りだけ時間がゆったりと流れております。
 その次のおじさんは、勢い余って小銭入れから小銭を全部カウンターにぶちまける。もちろん、床にも小銭は散らばる。後ろのお客さんにまで小銭を拾わせながら……。
 次は、子ども4人連れのファミリー。「いやな予感」は的中でございます。
 子ども達は、1人、1人、1冊づつ、「たのしい幼稚園」を抱えております。ああ、すべて1人づつ別会計。そして、ニつあるレジの内ひとつは「休止中」にしているにもかかわらず、おじさんがそこに本を『ドン!!』と投げるように置く。並んでくれえええ〜。
 そうこうしているうちに、並んでるお客様の「イライラゲージ」が最大値になっているのが痛いほど伝わってまいります。ゲームオーバー寸前のまさに崖っぷちでございます。
 次の方、
「本の名前も書いた人も出版社も全然わかんないんだけど、こうこうこういう感じの本ある?」
 どれか一つでも調べてから聞いてよお〜。1人の時は勘弁願いたい事柄の連続、連続、連続……。

 そんなこんなで必死に目を血走らせながら、ほうほうの体にてなんとか長蛇の列をこなしたと思ったとき、もう1人のスタッフが休憩から戻ってまいります。そして、2人になってからは何事も無く「まったり」とした時間が流れていったのでありました。もちろん電話が鳴ることもなく、静かな平穏な時間が流れていくのでございます。
 何かこう、皆でグルになって私に嫌がらせをしているのではないでしょうか!? それとも何かの罰ゲームでございましょうか?
「よし! チャンスだ! 今だ並べ!!」
 という具合に。書店員が被害妄想に陥るワンシーンでございます。
 皆様どうか、適度にばらけてレジへと向かってくださいまし。切に切にお願い申し上げます。

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