5時から作家塾

第3章 書店の謎

◆なぜコミックはどこもかしこもビニール掛け(シュリンク)されているのか?

 昔、「ビニ本」つうものがございました。まあ、内容はB級のエロ本でしょうか。当時、この手のものに興味津々であったお年頃の方も多々いらっしゃったかとは存じますが、何かこう、ビニールで覆われると怪しさ、いかがわしさ5割り増し、といった趣で、よりいっそうロマン?を駆り立てられるものでございます。つうか、ビニールでガードして「見るな!」なんて仕打ちを受けますと、我々はいっそう見たくなってしまうものでございます(って書いている私なんかオヤジ入っていないでしょうか? ああやだやだ)。

 売れる前に中身が見えてしまっては(見られてしまっては)意味が無い本というものがございます。先にあげた「ビニ本」というのもその一つ。なぜならオマエ絶対三十路過ぎだろう! というお方がセーラー服なんぞ着ていたりなもので目に毒……。
 ではなくて、ええと、「ゲーム攻略本」というジャンルがございます。これなんかは、立ち読みで攻略法がわかれば、イチイチお金出して買うようなゲーマーは激減間違いないでしょう。とにかく、載っている攻略情報自体が商品価値のすべて。それ以外の付加価値というものは持ち合わせないジャンルでございます。
 お客様としても、出来ることなら身銭を切ることなくゲームを攻略したいもの。オープンにして立ち読み開放にした日にゃあ、ゲーマーたちが目を血走らせ、攻略法を立ち読み丸暗記、という光景が展開されるのは必至でございます。
 それではゲーム攻略本など売れようはずもなく、我々書店員は商売あがったり。で、「この中の情報欲しかったら買ってね」との意思表示の結果が、ゲーム攻略本に掛けられたビニールなのでございます。
 ゲーム攻略本についてのビニールはもはや、日本書店業界のデファクトスタンダード。お客様とのあいだにも、「攻略本はビニールが掛かっていて当然」といったコンセンサスが出来上がっております。
 しかし、それとは別に書店の中でヒジョーに微妙な立場におかれているジャンルがございます。そう、コミックです。
 最近、コミックをビニール掛けする書店というのは年々うなぎのぼり、右肩上がり(←この表現って的確?)に増える傾向にありますが、反対にポリシーとしてビニール掛けしていない書店というのもございます。
 ここで、コミックビニール掛けのメリット・デメリットを考察してみようかと。

《お客様的メリット・デメリット》
  ●メリット キレイな本が買える。
   (人の手垢の付いていない、立ち読みによるヨレや、
    破れのない程度良好の本。)
  ●デメリット 中身が確認できない。
   (すでに買っている本かどうか確認できない。
    面白いかどうかもわからない。)

《書店的メリット・デメリット》
  ●メリット 売場が乱れない。
  ●デメリット もしかしたら「立ち読みできる書店」にお客様を
   取られているかもしれない。

 メリットに関しては良しとして、さてデメリットの部分については果たしてどうしたらよろしいものか?

 まずは、ビニールを掛けている書店の場合。
 よく、書店店頭コミック売場には「中身を確認されたい方はレジまで」なんてことが書かれたPOPが貼ってありますが、それさえ貼っとけば店頭のコミック全部ビニール掛けても大丈夫だろう、といった免罪符のおつもりのご様子で。
 しかし、実際はほとんど意味なぞありゃしません。本当にレジで「中身確認させて下さい」なんて申告があるのはごくごくまれでございます。
 つうか、コミックのコアな客層はウブな少年少女たちでございます。そんな彼ら彼女らは、気恥ずしいのかなかなかレジには訊きに来られません。何も言わずに中身の確認できる書店へと行ってしまわれます。
 また往々にして、
「これと同じ巻家にあったから別の巻ととっかえて」
 などといったケースが多々発生します。この場合、まあ本当にダブっているんでしょうが、たまーにホントは同じ巻なぞ家にありゃしない、その本読んじゃってから「ダブってた」といって別の巻と交換しようとする、いわゆる返品サギにあう可能性もなきにしもあらず。
 お客様には、ご自身の記憶を頼りに「ジャケ買い」を強要するのがこのタイプの書店でございます。そのかわり、売場は乱れも無く、程度良好な美本ばかりでございます。

 さて、次はビニール掛けない主義の書店。
 ここは……。ハッキリ直截に申し上げまして、無法地帯でございます。コミック売場は「カオス」を形成しております。まさに「立ち読みのメッカ」。中には朝からずうっとその場に陣取り、「全巻読破」を試みるツワモノまでいらっしゃいます。床には抜け落ちた「スリップ」が散乱し、平台の本はカバーは外れまくり、表紙は折りグセはついているは、めくれあがってピロピロ(なんだこの表現?)になっているはで、もう商品はボロボロ。書店員は整理せども整理せどもまたまた先のありさま、のイタチごっこが無限ループのごとく永遠に続くのでございます。
 そして、中身が見られるというメリットがそのまま売上に結びつくのか? と思いきや、この手の書店は単に「中身確認用」として存在する便利な書店として利用されるだけ。まさに「いい人」で終わってしまうっつう感じの負け犬書店に成り下がり。売上は美本揃いのビニール掛けしている書店にもっていかれるなんてことも多々あるのでございます。
 そんな毎日に疲労困憊したビニール掛けしない書店は、次々とビニールを掛け始めるのでございます。もはやコミックにビニール掛けしない主義の書店は、絶滅寸前の、「レッドデーター書店」なのではなかろうかと思われますが。
 というワケで、日本全国の書店店頭でコミックがビニ本化するのも間近でございます。買う前は入念なご準備を(←どんな準備だ?)。

[5時から作家塾]トップページ